する する と肌を滑る感触。 骨ばったそれは、けれど不思議に繊細で柔らかい。 わたしはいつも好きだった、 かれの 大きな手が。 ふと名を呼ばれる。 低く、呟くような、掠れた声で。 返事をしようとすると、それを遮るように。 いつもの態度からは想像も出来ないくらいの優しい力で、指先が唇の割れ目に埋め込まれた。 ひんやりと冷たい指先。 …いつもそう。 彼の身体はいつだって燃えるように熱く感じるのに、何故かその末端である指先だけは、いつも冷たくて。 だからこそわたしの神経が敏感になってしまう、のかもしれない。 でも何故か心地良い。 そっと上唇が押され、くちゅ という微かな湿った音が響いた。 濡れた指先はそのままわたしの唇の上を滑っていき、熟れた色に染める。 武道を嗜む人間とは思えないほど それはしなやかで だけどちらりと、ほんの少しだけ、彼の獰猛さが垣間見える動き。 身動きをとろうにも、もう片方の掌が、わたしの輪郭を捕らえて離さない。 まるで目を逸らすことすら許さないとでも言うように。 視線は、居心地が悪くなるほどに真っ直ぐで。 瞬きすることすら 惜しいほど。 眩暈がした。 くらくらして、呼吸が苦しくなる。 彼に触れられると不思議と身体から力が抜けていくのだ。 いつも、いつも。 また小さな湿った音がして、冷たく濡れた指先が唇から離れた。 つ、と視界に映る銀の糸。 その糸が切れぬ間に、運ばれた先は、彼自身の口許。 ぺろり、と赤い舌先が覗いた。 意識がじんと甘い痺れに犯されていく。 ああまた、眩暈。 (……蓮の手ってえろいよね) (その手を好きだと言ったのは貴様だろう) |